著者:磯田道史
出版社:文藝春秋 (2020/9)
〈おすすめコメント〉
今回私が推薦する一冊は磯田道史氏の「感染症の日本史」です。2020年9月に発刊された本で当時ベストセラーにもなったそうです。著者はNHKの歴史番組のキャスターも務め、非常に楽しそうに番組を進めている姿は印象的です。彼は幼少期から日本の歴史に興味があり、そのために勉強をし、大学もその分野に進学し、卒業後も・大学院に進み、研究を続けてきました。まさに、趣味と実益を兼ねて研究活動をして活躍しているところは大変羨ましい限りです。
私は2023年になって機会がありこの本を手にしました。堅苦しい本ではなく、気軽に読める一冊です。内容的には今回の新型コロナウイルスパンデミックに関連して、過去のインフルエンザパンデミック(スペイン風邪)における感染症対策などの文献や報道などから比較をし、我が国における感染症対策は現在も明治期もあまり進歩が見られないのではないかとも述べています。また、江戸時代のポリオや麻疹は多くの生命を脅かす重篤な疾患であり、大変悲惨であったことも忘れてはなりません。多くの子どもたちは感染症で幼少児期に死亡することも多く、成人でも死亡することも稀ではありませんでした。こうした医学的知識が少ない時代であっても経験に基づいて感染者の隔離対策が行われました。
さて、重篤な感染症の重要な予防対策として現在の定期予防接種があるはずなのですが、昨年度はMRワクチン接種率が90%を下回ったとのことで、麻疹の流行阻止に懸念が生じています。周囲に麻疹罹患者や感染に伴う死亡者や後遺症患者など身近に接する機会がなく、麻疹罹患の恐ろしさ知らないためにワクチンを忌避しているように思います。一部の保護者で新型コロナワクチン導入以降定期ワクチンに対しても信頼性が揺らいでしまったように思われ大変心配な状況です。感染症と定期予防接種の意義を正しく理解してもらうことの難しさを感じています。
神奈川小児科医会会長(相原アレルギー科・小児科クリニック院長) 相原 雄幸